コミュニティのビジネス価値は「SPACESモデル」で整理しよう

「コミュニティって何のためにやってるの?」と聞かれたら、即答できますか?
コミュニティの価値っていろいろあるので、意外と説明が難しかったりしますよね。そんな時に役立つのが「SPACESモデル」です。「SPACESモデル」とは、コミュニティから得られるビジネス価値を整理して6つに定義したフレームワークです。今回はこの「SPACESモデル」について解説し、どのように活用すれば良いのか、そして活用時の注意点をご紹介します。

このモデルを使うことで、コミュニティが自社の事業にどう貢献できるのかを、シンプルに整理できます。企画や社内説明に役立ちますので、ぜひ参考にしてみてください。

こんな時に使える

  • コミュニティの戦略やロードマップを検討したい。
  • コミュニティがビジネスにどう貢献できるのかを、経営層や上司に説明したい。
  • 社内の複数部門から協力を仰ぐため、各部門のメリットを説明したい。

SPACESモデルとは

SPACESモデル

「SPACESモデル」とは、コミュニティから得られる6つのビジネス価値を定義したものです。「Support」「Product」「Acquisition & Advocacy」「Content & Contribution」「Engagement」「Success」の6つの頭文字を取って「SPACES」となります。CMX(コミュニティのプロフェッショナルが集う世界最大級のコミュニティ)創設者のDavid Spinks氏によって提唱されたモデルです。

彼はこのように言っています。コミュニティはこれまで、カスタマーサポートやマーケティングチャネルとして見なされてきたが、それはコミュニティが生み出すビジネス価値のほんの一部に過ぎない。コミュニティは、マーケティングから商品開発、営業、サポートまで、事業のほぼ全ての部門に貢献できるが、あまりにも多様で目が眩むだろうからシンプルなモデルを作成したのだと。

コミュニティから得られる6つのビジネス価値

SPACESモデルの6つの要素について、それぞれ解説していきます。

【S】Support カスタマーサポート

ユーザーコミュニティなどでは、ユーザー同士で質問や相談をし合う場を提供することで、カスタマーサポートのコスト削減や満足度向上につなげることができます。つまり、ユーザーからの問い合わせ全てに自社のサポートスタッフが対応するのではなく、ユーザー同士で解決してもらおうということです。数百人、数千人というユーザーがお互いにサポートし合い、多くの問題を解決してくれる、その価値を想像してみてください。

KPIの例
・アクティブユーザー数
・質問回答数
・カスタマーサポートへの問い合わせ削減数

【P】Product プロダクトへのフィードバック

ユーザーコミュニティを運営することで、製品やサービスへのフィードバックをユーザーから直接得ることができます。新たなアイデアや改良のヒントを得るための調査費用や時間を節約できるのです。また、開発者とユーザーが直接会話できる機会を設けたり、開発途中のプロトタイプでテストユーザーになってもらうなど、様々な方法で商品開発にユーザーの生の声を取り入れることが可能です。しかも、ユーザーはこのような企業姿勢を喜びますので、ロイヤルティまで高めることにつながります。

KPIの例
・新しいアイデア
・商品改良
・ミートアップイベントへの参加者数

【A】Acquisition & Advocacy 新規顧客の獲得、顧客による推奨

ユーザーコミュニティやファンコミュニティなどでは既存顧客同士のネットワークを構築することで、既存顧客によるクチコミや評判の拡散をより強力に促すことができます。それによって認知拡大や新規顧客の獲得へつなげることができます。SNSによって誰もが情報発信できる時代には、企業がお金をかけた広告メッセージよりも、ユーザーの評価や体験談のほうが多くの人を動かすのです。詳しくは、「ダブルファネルマーケティング」で検索してみてください。

KPIの例
・SNS投稿数
・新規顧客数
・イベント参加者数

【C】Content & Contribution コンテンツ、貢献

コミュニティは、企業が提供する情報やサービスだけでなく、そこに集まる人や、彼らが生み出すコンテンツによって構成されています。ユーザー生成コンテンツ、つまりユーザーが生み出してくれる価値が、そのままビジネスの価値になり得るということです。特に、プラットフォーム型のビジネスでは、ユーザーのアクティビティ(質と量)が利益に直結しますから、コミュニティが非常に重要な役割を果たします。
例えば、Googleデベロッパーグループには多くの開発者が集まり、彼らが生成する情報やアプリケーションの価値を拡大すると同時に、Googleの利益拡大にもつながっています。

KPIの例
・ユーザー生成コンテンツ
・アクティブユーザー数
・イベント参加者数

【E】Engagement エンゲージメント(顧客、社員)

コミュニティは、顧客とブランドとの絆を深め、ロイヤルティ向上、継続率や購入金額(LTV)の増加などにつながります。共通の関心を持つ人、同じブランドを愛する人を集めることで、彼らはその意志と行動力を強化することができます。例えば、Appleが好きな人たちが集まり交流することで、彼らはAppleの素晴らしさを益々強く感じ、自身の選択に強い誇りを持つことができるのです。

また、これは社員においても同じです。社内コミュニティによって社員のエンゲージメントを高めることができます。大企業ほど、縦・横・斜めで社員を共通の価値観で繋ぐことが大きな意味を成すことでしょう。

KPIの例
・SNS等のエンゲージメント数
・イベント参加者数
・NPS(ネットプロモータースコア)

【S】Success カスタマーサクセス

ユーザー同士を繋ぎ、製品の活用方法、ベストプラクティスの共有、スキルアップを促すことで、多くのカスタマーサクセスを生み出すことに貢献できます。顧客の成功事例が、新規顧客の獲得やLTV向上につながることは言うまでもありませんね。

しかも、自社のスタッフだけが顧客を支援するのではなく、実際に成功している顧客がメンターやインストラクターとして動いてくれることになるのです。

KPIの例
・アクティブユーザー数
・イベント参加者数
・NPS(ネットプロモータースコア)

SPACESモデルの活用方法と注意点

SPACESモデルを活用すべき代表的なシーンが2つあります。「コミュニティ戦略の検討」と「社内の説得」です。

コミュニティ戦略の検討

SPACESの6つに分けられるように、一口にコミュニティと言ってもさまざまな側面があります。コミュニティが持つポテンシャルは実に幅広いのです。うまく発展させれば、様々な形で、ビジネスに強力な推進力をもたらしてくれます。しかし、最初からあれもこれもと風呂敷を広げてしまうとうまくいきません。将来的なポテンシャルを理解し、ビジョンを描くことはもちろん大切ですが、まずは目的を絞り、小さな成果から育てていくことがコミュニティ成功の秘訣です。コミュニティは中長期施策であり、短期間ですぐにビジネス的な成果が出るものではありません。漠然とした期待感で始めるのではなく、計画的にいきましょう。

米THE COMMUNITY ROUNDTABLE(コミュニティに関するリサーチ会社)の2019年のレポートによると、高度な戦略があるかどうかでコミュニティのROIは2倍の差がつくと結論づけられています。高度な戦略の要素の一つとして、「目的の定義とその実現に向けたロードマップ・戦略」がありますが、そこで、SPACESモデルが役立つのです。

社内の説得

コミュニティ運営において、社内のリソース獲得(人や予算)は重要な要素であり、そのためにはビジネス的なメリットを訴求する必要があります。それもまたコミュニティ担当者の仕事です。社内の関係者に説明し、理解してもらわなければなりません。

多くの企業で、コミュニティに対する社内理解の現状は厳しいものです。社内での戦いに向けて、SPACESモデルという武器を使いこなしてください。あるいは、私のような社外の専門家に話させた方が効果的なケースも多いです。社内の説得の際はぜひ私を召喚してくださいね。

社内説明時の注意点としては、「コミュニティは長期施策である」ということです。SPACESモデルで期待感が高まり、「1年後には売上アップ」などと短期間で成果が出るものとして勘違いされてしまうと、後々大変なことになってしまいます。会社を説得したいがために、短期的なKPIで無謀な約束をしてしまわないよう気をつけましょう。

まとめ

今回の記事では「SPACESモデル」を紹介しました。

多くの企業で、コミュニティは過小評価されています。コミュニティ担当者の貢献もまた過小評価されているのではないでしょうか。ぜひSPACESモデルで、コミュニティが生み出す価値を社内にアピールし、コミュニティ担当者の皆さんも適切な評価を勝ち取ってくださいね。

参考文献

投稿者プロフィール

伊藤真之
伊藤真之代表取締役
1983年生まれのパラレルマーケター、そしてコミュニティデザイナー。
マーケティングやコミュニティデザインの方法論を研究開発する傍ら、自身では宇宙ビジネスの実践コミュニティ「ABLab」を主宰。人が動き出すコミュニティ創りを実践する。複数の企業をコミュニティとマーケティングで支援し、仕事の後はクラフトビールで乾杯したい。